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任天堂”驚き”を生む方程式 井上理

この本は、日経ビジネスの記者でゲーム業界に造詣が深い井上理氏によって書かれたものです。
なかなか外部に語られることのない任天堂の経営について、現役あるいは歴代経営陣への綿密な取材を通じて得られた成果を、惜しみなく披露されている貴重な一冊となっています。

2009年に出版された書籍なので、現在とは世界情勢や市場を取り巻く環境は異なっていますが、それでも100年に1度というリーマンショックの影響が消えない最中に、売上高1兆8000億越えという過去最高の数字を叩きだした娯楽企業から学べることは数えきれないほどあります。

世界中の景気が低迷し、人々が生活に困っているはずの状況で、生きるために必要でないモノを売っている企業が必需品を売っている企業よりも支持される。
おもちゃやゲームや遊びといった娯楽に興味のない方であっても、任天堂の経営陣がどのような考えや策を持って大不況を乗り越えたのか、そこを知ることは決してムダにならないはずです。

具体的な本の内容としては、第1章で、当時任天堂の社長であった岩田聡氏が社長に就任した当初のゲーム業界の置かれた状況の解説から、そこに旋風を巻き起こしていくまでの過程。

第2章で、その旋風の根源となったNintendo DSやwiiといったハードや、それらの性能をフルに活用した脳トレやwiiフィットなどのソフト群誕生秘話。
第3章で、それらを生み出した代表格である岩田氏やゲームクリエイターの宮本茂氏などの人物像や思考に焦点を当てます。
第4章からは、任天堂そのものに息づく文化や哲学に触れていき、第5章でその文化を作るきっかけとなった伝説のクリエイター横井軍平氏の功績をたどります。

第6章と第7章では、任天堂を世界的な企業へ押し上げた稀代の経営者、山内溥氏への直接インタビューを通じて任天堂の歴史を紐解いていき、最終章で本書が執筆された当時の経営戦略を紹介して締めというかたちです。

プロローグから含めて300ページ以上にもわたる任天堂の経営に関する市販本は他にないので、日本の企業史においても重要な役割をもった作品だと思います。

任天堂の根本部分に触れることができます

本書では、流行り廃りの波が激しい娯楽の世界で100年以上にもわたり生き抜いてきた任天堂の根本部分に触れることができます。

人間が生活していくための必需品を扱う業界であっても、これほど長年続く企業は珍しいのに、それよりもはるかに厳しい目にさらされる場所で戦った企業から生存戦略を学ぶことは、あらゆる業界で役に立つと思います。

具体的には、大きく分けて4つ得られるものがあると感じています。
1つ目は、行き詰まっている市場での打開策を見つけ出す方法、いわゆるブルーオーシャン戦略と呼ばれる方法論のケーススタディーとして参考になること。
新たなユーザー層の開拓や、自分たちの扱う商品を嫌っている人たちから逃げず、堂々と受けいれてもらうための大胆な戦略は抽象化して頭に保存し、自分の所属する業界で具体化できればかなり応用が利くと思います。

2つ目は、娯楽商品という人に感動や驚きを与えなければ買ってもらうことのできないシビアな製品を生み出すための思考法。

生活必需品を扱う方には一見関係のないことのように感じられるかもしれませんが、むしろその分野でこそ活きる可能性が高いかもしれません。生活必需品を扱う業界は他に比べ参入障壁も低いので最も競争の激しい業界だと思います。だからこそ、その場所で生き抜くうえでは競合他社との決定的な違いを生み出すことが重要になってきます。
娯楽商品は他と一緒、他より少し良いが一番悪いと言われていますので、本書で人の心を動かすことに特化した商品の生み出し方を学ぶと、決定的な違いを生み出す土台になり得る可能性があります。

3つ目は、商品を思い描くだけでなく、それでしっかりと利益をあげていくための制作論。
娯楽商品の開発は利益度外視で理想が先行してしまいがちなので、そうならないための方法論を学ぶことも大いに役立つはずです。

4つ目は苦しい状況下における精神面の保ち方。

厳しい環境に置かれたとき、あるいは想定以上の結果がでたときの両面での精神的な安定が長期的な結果につながります。これについても本書では触れられているので学ぶことができます。

娯楽商品を扱う業界を知ることができる

娯楽商品を扱う業界の方はもちろんのこと、個人的にはむしろ生活必需品を扱う業界の方たちにこそおすすめできると思っています。

これほど豊かでモノが溢れている時代だからこそ、人の注目を浴び、これが欲しいと思ってもらえるような商品を作り出す必要があります。

娯楽業界はもともとそこが戦いのフィールドでしたが、今やその波は必需品業界にまで押し迫っています。

商品を仕入れて並べているだけでも売れている時代はありましたが、これから先はそのような時代は二度と訪れないかもしれません。

いまは、販売プラットフォーム自ら商品開発に乗り出し、流通を押さえ、店舗というハードを活かすためのソフトの開発にまで手を伸ばすことが生き残るために求められています。

非常に難しい環境下ではありますが、対極にある娯楽業界で長年生き抜いてきた任天堂という最高の先生が日本に存在していて、その経営のノウハウに触れることができるというのは、これ以上ないほど恵まれているとも言えると思います。

数年前の本で、今となっては役に立たないとは考えず、ぜひ一度手にとって読んでいただきたいです。

読む前と読んだ後では世界の見え方が変わるほどの影響があると感じています。

任天堂 “驚き”を生む方程式

任天堂 “驚き”を生む方程式