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ビジネス本・金融本感想文

おすすめビジネス本・金融本をご紹介

空き家問題、1000万戸の衝撃 牧野 知弘著

2015年10月末、横須賀市の老朽化した民家が行政代執行によって解体されました。

同年5月に成立した「空き家等対策の推進に関する特別措置法」を受けて執行された
初めてのケースということで、テレビでも盛んに報じられていました。

映像で繰り返し見せられた衝撃は大きく、書店で手に取ったのがこの本です。

内容は「日本の空き家の現状」「放置される空き家の問題点と、派生する諸問題」
「どのように解決に導くか」等が、数字を交えてわかりやすく書かれています。

具体的に言うと、日本国内の空き家総数は800万戸で空き家率は13%、過去5年間で
100万戸増加しています。つまり年間20万戸のペースで空き家が誕生していることに
なります。このままいけば、2040年には空き家率が15%に突入することになります。
何故このような事態に至ったのか、何が問題でどのような背景があるのか、著者は
わかりやすく説明してくれます。

供給過剰、新築に傾斜している優遇税制など、腑に落ちることが語られていきますが
最も重要な点として指摘されているのが、高齢化と人口減少という問題です。
この問題が生み出す影響は広範囲に及びますが、「住宅」「不動産」も例外ではないのです。

少子化、高齢化による人口減少の結果として、地方では学校が廃止になり、限界集落と
言う言葉も珍しくはなくなりましたが、問題は地方だけのものなのでしょうか。
著者はここにも警鐘を鳴らします。

東京五輪を前に都市部では不動産、建築需要が増大しているのかもしれませんし、
実際「オリンピックまで、土地は大丈夫」という話もよく耳にします。
しかし人口の推移も加味して示された数字は、首都圏で暮らす4人に1人が高齢者という
またもや衝撃的なものでした。

数字を踏まえてのこうした予測に、我々はどう対処していけばいいのでしょうか。
この問題に対する解決策の部分は、多少諦めのニュアンスが滲んでいるような印象です。

根幹部分に人口減少という問題がある以上、短期での劇的な回復は望むべきもないとの
思いがあるのでしょうか。
解決策として示されていることは、「空き家問題」を憂慮する他の先生方も提言していることと概ね変わらないことです。これを全て迅速に実行したとしても、高齢化や人口減少
そのものを止めることが出来ない以上、緩和する程度の効果しかないかもしれません。

この本を読んで確信したことがあるとすれば、日本社会は大きな転換点を迎えているのだということ。社会のあり方や構造を変えてしまう程の方向転換、変化に対する覚悟を我々は求められているのだということです。

空き家問題の問題点や及ぼす影響

この本は実用書ではありません。
少子化だ高齢化だと、ここ数年騒がれないことはありません。
しかし空き家問題点や及ぼす影響について、どの程度きっちり認識されているでしょうか。
「年金受給額が減少し、現役世代の負担が増える」、ことは年金だけの問題では
ありません。

人口が減少すると、消費も減少します。そういう意味から言えば、国内産業は全て等しく影響を受けます。

輸出で稼いでも、稼いだお金が日本国内で回らなければ同じです。
では外国人に日本に来て頂いて、お金を落としてもらおう。
そう言えば、政府はそんなことを言っていましたね。
中国人観光客が来日してたくさん買い物していくことを「爆買い」と形容しますが、
もっと多くの外国人に来て頂こうというわけです。

このように考えていくと、高齢化社会に突入しつつある今現在、何が必要とされてゆき、何がゆっくりとした衰退期を迎えるのかがよくわかります。

老人ホームなどの施設はまだまだ不足でしょうし、同様に介護分野の人手も絶対的に
不足しています。医療施設も同様でしょう。

では「空き家問題」から見ると、住宅はどうなのでしょうか。
専門家でも何でもないのに気が引けますが、住宅特に「新築住宅」は減少の一途を辿るとしか思えません。現状でも家屋が余っているから「空き家」があるのですから。

中古住宅やリフォーム産業はどうでしょうか。
核家族化が進んできたこともあり、高齢者の独り暮らし世帯も数多く存在しています。
人生の終盤を迎えつつある彼らが、多額の費用をかけて家のリフォームに乗り出すでしょうか。
資金に余裕がある高齢者はともかく、リフォームにお金をかけるより医療や健康のために使わないでおく方が多いような気がします。

強いて言えば、お風呂やキッチンなどの小さなリフォームには手を出すでしょうが、大規模なリノベーションには余程の場合を除いて、及び腰ではないかなと言う気がします。
「余程の場合」とは、例えば娘や息子夫婦、孫と同居するという場合です。

あれ、そう言えばつい最近どなたかが「3世代同居」を推奨していましたね。

3世代同居が実現すれば、若い夫婦は共に働くことが可能になります。
可愛い孫のための資金援助も期待できるかもしれませんし、日常生活の些細な補助は
若い夫婦に期待出来るかもしれません。

問題の空き家に話を戻すと、更地に戻したら固定資産税等の税金が跳ね上がるという
この部分に手を入れない限り、自主的に解体する人が増えることはないでしょう。
徴税当局に言わせれば「優遇していたのが、元に戻るだけだ」でしょうが。

これが相続にでもなった時、自分で住む予定もない不動産のコストを支払ってまで持ち続ける
メリットがあるのでしょうか。解体費用を支払い、固定資産税を負担してまで土地を保有し続ける必要性があるのでしょうか。

オンリーワンな立地条件の土地家屋ならいざ知らず、土地も住宅もその辺にゴロゴロしていると言うのに。

相続しなくても、より安くて場所も良い物件が選べるというのに。

「空き家問題」が高齢化問題の1つの側面である以上、何らかの政策が示される可能性があります。

住宅や建築は都市計画と密接に関係しているため、この分野で大きく政策が動く可能性もあります。

現在各自治体で「コンパクトシティ構想」が検討されていますが、これは居住空間を
一定のエリアに集めて人口の集積を促し、買い物や病院に行きたくても足がないなどの
不便を解消すると共に、いざという時の管理をしやすくする政策だと理解しています。

人口構成が大きく変わるものでない以上、政治が何をどうしたくて政策を打ってくるのか、税制のどこをいじるのか、日本社会の未来にどのような絵を描けるのかを考える
よい機会になるでしょう。

相続が現実問題となりつつある人におすすめ

これから社会に出ようとする学生、現在仕事をしている社会人、相続が現実問題となりつつある人など、幅広い層の方々に読んで頂きたい本です。
何故ならば高齢化・人口減少は社会全体の問題であり、その影響は広く広範囲に及ぶからです。
「空き家問題」は住宅政策を変え、町の姿を変えます。
町の姿が変われば、私たちの生活や暮らし方が変わります。
私たち一人一人に大きく関わる問題なのです。

高齢化や人口減少が「住宅」に及ぼす影響を見ていくと、背筋が寒くなる思いがしますがこれらの現実から目を背けていても問題が解決するわけではありません。
確実に「その時」はやってきます。

であるならば起こり得ることを想定し、今後迫られるかもしれない様々な選択に
生かすことが出来るかもしれません。

高齢化問題への意識を共有し、来たるべき人口減少社会とどう向き合い、どのような
社会を築いていくことが可能なのかを一人一人に強く問いかける、今読むべき1冊と
言えるでしょう。

空き家問題 (祥伝社新書)

空き家問題 (祥伝社新書)